AIで試作品が作れる時代、MBAで起業を学ぶ意味は?Lean LaunchPadの再設計から考える
情報確認日:2026年10月25日(日本時間)|対象:StanfordのLean LaunchPadに関する授業再設計案
「AIでアプリも事業計画も作れるなら、起業のためにMBAへ行く意味は、まだあるのでしょうか」
起業や新規事業を目指す方にとって、切実な問いです。制作のために必要だった時間が短くなれば、学校で学ぶ価値も変わります。ただ、画面が動くことと、顧客が使い続けることの間には、まだ確かめるべきことがあります。
2026年9月30日、Steve Blank氏はLean LaunchPadの授業再設計案を公表しました。本稿では、MBA志望者が「何を学びに行くのか」を見直す材料として取り上げます。
変わろうとしているのは、何を学習の証拠とするか
Blank氏の案は、AIで作った未検証の製品をIUP(Initial Untested Product)と呼び、見た目の完成度と検証の進み具合を区別します。9週間の授業は二部構成で、第1〜4週は顧客や関係者の課題・仮説を深く理解する期間、第5〜9週は共同で検証に取り組む相手(デザインパートナー)の獲得を目指す期間とされています。学生には週10〜15件のステークホルダー面談を求める想定も示されています。ただし、本人はこの新シラバスを、今後の授業で試す案として位置づけています。(出典:Steve Blank氏による再設計案(2026年9月30日))
ここから先は、この提案を踏まえた考察です。例えば、営業担当者向けの提案書アプリを作れたとしても、それだけでは誰が予算を出すか、社内で使用が認められるか、既存の作業より役に立つかは分かりません。これは説明用の例であり、同授業の実際の学生事例ではありません。
日本人MBA志望者が注目したいのは、使うAIの名前以上に、授業がどのような行動を求め、どの証拠に基づいてフィードバックするかです。自分の案が通った経験だけでなく、案を変えざるを得なかった経験まで持ち帰れるか。そこに、学校で取り組む実践の意味が見えてきます。
「StanfordのMBA全体が変わった」とは読まない
Lean LaunchPadは、Stanford公式サイトがENGR 245として案内する実践型の起業科目です。顧客と話し、仮定を試し、毎週のフィードバックを受けながら学ぶ科目として紹介されています。MBA全体の必修課程を刷新したというニュースではありません。また、公式サイトはMBA専用の科目とは説明しておらず、Stanford内の幅広い学生に参加を呼びかけています。過去のチームの紹介にはMBAの学生も含まれますが、MBA生だけの授業と受け取るのは正確ではありません。(出典:Stanford公式の科目紹介)
また、MBAに合格すれば、希望する実践科目を必ず履修できると考えるのも早計です。公式サイトにはチームでの応募と選考の案内があります。年度ごとに日程や条件が変わるため、将来自分が入学する年度の条件は改めて確認する必要があります。(出典:Stanford公式の応募案内)
学校選びでは、「魅力的な授業がある」と「自分がその授業へ参加できる」を分けて調べましょう。これは一校の評価を下げる話ではなく、志望理由を実行可能な学習計画へ近づけるための確認です。
起業志望者が、在校生に聞きたい三つのこと
ここからは、今回のニュースを学校選びに使うための提案です。説明会や在校生との会話では、次の三つを確認すると、パンフレットだけでは見えない学習の中身に近づけます。
一つ目は、顧客に会う機会です。面談相手を自分で探すのか、学校のネットワークを使えるのか。自分が取り組みたい領域で、利用者や購入担当者へ接点を作れるかを聞きます。日本の顧客を対象にする構想なら、現地での学習とどうつなぐかも課題になります。
二つ目は、評価の方法です。「良い発表」の条件に加え、予想が外れたときに、何を学んだと説明すればよいのかを尋ねます。試した内容、得られた情報、その後の変更を具体的に話してもらうと、授業の実態が分かりやすくなります。
三つ目は、参加の条件と負担です。選考、必要なチーム構成、授業外の活動時間、実験にかかる費用を確認します。就職活動と並行して取り組めるかも、自分の優先順位に照らして判断したいところです。学校ごとの学びの中身の読み方は、MBAの「AI教育」、何を見ればいい?でも整理しています。費用や期間の比べ方は、海外MBAの費用・奨学金・期間をどう比べる?も参考にしてください。
出願前からできる、小さな検証
「起業家になりたい」という志望理由を深めるために、今すぐ会社を辞めたり、製品を発売したりする必要はありません。まず、解決したい問題について、自分が知っていることと推測していることを一枚に分けてみましょう。
例えば、「提案書作成に時間がかかる」という問題なら、誰の、どの作業なのかを具体化します。作成者が困っていても、上司は品質のばらつきを問題にしているかもしれません。ここでも、そうした違いがあると決めつけず、話を聞いて確かめます。
面談後は「最初の予想」「実際に聞いたこと」「考えを変えた点」「次に確かめること」を残します。会社や顧客の機密情報は持ち出さず、聞いた話を出願書類で使う際にも、許可と匿名化の必要性を確認してください。
この記録があれば、MBAで補いたい力を具体化しやすくなります。技術の協力者を見つける力なのか、顧客への接点なのか、収益性を見極める知識なのか。それによって、必要な授業や環境も変わります。こうした準備が合格を保証するわけではありませんが、志望理由を自分の経験に結びつける助けになります。
ニュースを読んだ後に、何を一つ変えるか
今回の提案から考えたいのは、AIを使う時代に、どの学習へ時間と費用をかけるかです。授業再設計の成果は今後の検証を待つ必要があります。その一方で、学校を調べる側は、すでに質問の仕方を変えられます。
候補校を一校選び、気になる実践科目について「参加条件」「顧客と接する方法」「評価される証拠」の三点を書き出してみてください。まだ分からない項目を、次の説明会で聞く質問にする。それが、AI時代の起業教育を、自分のMBA選びへつなげる一歩です。
出典
- Steve Blank「Lean LaunchPad: The Next Generation」(2026年9月30日)
- Stanford「ENGR 245 – Lean Launchpad」
- Stanford「Lean Launchpad Application Info」
いずれも2026年10月25日(日本時間)に確認しました。再設計案は今後の授業で試される案であり、実施成果ではありません。
著者プロフィール
土佐徳彦(Naruhiko Tosa)
AFFIANCE Learning Studio創業者・代表。2003年の創業以来、海外MBA・海外大学院の受験指導に携わり、Harvard、Stanford、Wharton、MIT Sloan、INSEAD、LBSなど世界のトップMBAへ、700名強を合格に導いてきた。GMAT対策、英語読解、論理思考を専門とし、受験からキャリア設計までを支えている。
指導の傍らでCaetus Technology株式会社を共同創業。同社の製品は2020年度・2021年度と2年連続でグッドデザイン賞を受賞し、高機能ハンドクリーム「Hands Å P.P.」はJAXAの生活用品アイデア募集で選定され、2025年に大西卓哉宇宙飛行士の長期滞在ミッションで国際宇宙ステーションに搭載された。

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