米政権、Microsoft等8社の永住権手続を停止──Harvard・Stanford・MIT等9大学にはJ-1調査
MBA受験者が読み解くべき「三層の地図」
出願書類の向こう側で、制度の地図が描き替えられています。
「米政権、Microsoft等8社の永住権手続を停止──Harvard・Stanford・MIT等9大学にはJ-1調査」
米TIME誌(10月9日付)によれば、米政権は10月8日のホワイトハウス会見で、MicrosoftやAdobeを含む8社について、雇用ベース永住権の第一段階にあたるPERM(労働認定)の新規申請を受け付けず、係属中の申請も処理しないと発表しました。同じ会見では、Harvard、Yale、Stanford、MITを含む9大学に対し、J-1(交流訪問者)プログラムの不正利用をめぐる調査に着手し、すでに召喚状を送付したことも明らかにされています。
その前日には、国土安全保障省がOPT(卒業後の実務研修)に高額の手数料を課す規則案を示したばかりです。さらに同記事は、2025年秋の新規留学生がNAFSAの推計で前年比17%減、2026年春の留学生数は別の報告で前年比20%減だったと伝えています。
見出しだけを追えば、足がすくむかもしれません。けれども、海外MBAを目指す方に今必要なのは、恐れることでも、見ないふりをすることでもありません。発表の中身を正確に分解し、どの変数が自分の意思決定に本当に関わるのかを切り分ける作業です。本稿では今回の発表を「企業」「大学」「個人」の三層に分けて整理し、日本人受験者が今日確認すべき点を考えます。
まず、何が発表されたのか
事実関係を、報道に沿って確かめておきます。
会見は10月8日にホワイトハウスで行われ、ヴァンス副大統領、ソンダーリング労働長官、労働省のダスポジート監察総監らが発言しました。対象となった8社は、Microsoft、Adobe、Cognizant、Infosys、Tata Consultancy Services(TCS)、Wipro、HCL Technologies、Capgeminiです。労働長官は、これらの企業から新たなPERM申請を受け付けず、係属中のものも処理しないと述べ、理由として進行中の連邦捜査を挙げました。停止期間について副大統領は「必要な限り」と述べるにとどまり、明確な期限は示されていません。
特に、留学生がビザ取得に関して直面する課題についても触れておきます。
ビザに関する情報を常に把握することが重要です。
J-1調査の対象となった9大学は、Harvard、Yale、Stanford、Brown、ピッツバーグ大学、カリフォルニア大学デービス校、カリフォルニア工科大学(Caltech)、アリゾナ州立大学、MITです。監察総監は、外国からの影響や不適切な資金関係、ビザの不正利用が連邦資金による研究を損なっていないかを調べると説明しました。Harvard、Brown、ピッツバーグ大学、MITは召喚状の受領を認め、StanfordとUCデービスは協力する意向を示しています。
そして見落とされやすいのが次の一点です。同記事は、今回の調査によってJ-1の資格要件そのものは変わっていないと明記しています。
なお、各社や反対派の反論も報じられています。Microsoftは、前会計年度のH-1B申請の8割が既存社員の延長や資格変更だったと説明し、TCSは過去2年間のPERM申請が一桁にとどまるため人材戦略に影響はないとしています。インドのIT業界団体Nasscomも、影響は限定的だという見方を示しました。発表は政権側の主張であり、捜査の結論が出たわけではない、という距離感を保って読む必要があります。
第一層「企業」──8社の顔ぶれが語ること
8社のリストを眺めて、まず気づくことがあります。MicrosoftとAdobeを除く6社は、いずれもインド系を中心とするITサービス・人材派遣型の企業です。つまり今回の措置は「米国の大手テック企業すべて」を狙ったものではなく、特定の雇用モデルに照準を合わせたものと読むのが自然です。
MBA卒業生が多く進むコンサルティングファーム、投資銀行、テック企業のプロダクト職やマーケティング職の大半は、現時点で対象外です。その意味で、MBA受験者がただちに進路を書き換える必要はありません。
しかし、構造として見逃せない変化があります。それは「雇用主の単位で、永住権への道が丸ごと止まりうる」という前例ができたことです。
米国で働き続けたい留学生の典型的な道筋は、F-1学生ビザで学び、卒業後はOPTで働き、その間にH-1Bへ切り替え、雇用主のスポンサーで永住権を申請する、というものです。PERMはこの永住権申請の入口にあたります。これまで、この道筋のリスクは主に「個人」の側にありました。H-1Bの抽選に当たるか、自分のビザ書類に不備がないか、といった具合です。今回の措置は、本人にまったく落ち度がなくても、勤め先が対象に指定されれば手続が凍結されうることを示しました。
ここから導かれる実務上の示唆は明快です。卒業後に米国での長期就労を考えている方は、志望企業の「スポンサー実績」だけでなく、その企業が当局とどのような関係にあるのか、どの事業で外国人材を雇用しているのかにも目を配る価値が出てきました。就職先を選ぶ基準に、制度リスクという変数が一つ加わったと言えるでしょう。
第二層「大学」──J-1調査の射程を正しく測る
次に大学です。Harvard、Stanford、MITといった名前が並ぶと、MBA受験者は思わず自分の志望校リストと照らし合わせたくなります。しかし、ここは冷静に射程を測る必要があります。
今回の調査の焦点は、J-1ビザで来る研究者や交流訪問者と、連邦資金による研究です。TIMEが引用した連邦データでも、2024年の新規J-1交流訪問者はHarvardで2,218人、Stanfordで1,436人にのぼり、その多くは研究者や客員研究員とみられます。一方、フルタイムのMBA学生の大半はF-1ビザで渡米します。調査の直接の対象はビジネススクールの学位課程ではなく、J-1の資格要件も変わっていません。
ビザに関する新しい情報を常に把握しておくことが重要です。
ビザの取得に関しても注意が必要です。
それでも、大学単位の不確実性が受験者にまったく無関係とは言い切れません。召喚状への対応は大学の国際部門や法務部門に相当の負担をかけますし、大学と連邦政府との緊張関係は、留学生向けのサポート体制や大学の発信の慎重さに影響しうるからです。
ここで受験者がすべきことは、噂を拾い集めることではなく、一次情報に当たることです。志望校のInternational Student Office(国際学生課)や、ビジネススクールのアドミッションズが出している声明やFAQを確認してください。トップスクールは、こうした局面で在校生と志願者に向けて比較的早く見解を出す傾向があります。説明会や在校生との面談の場で、「今回の件で留学生のビザ手続やキャリア支援に変化はあるか」と率直に尋ねるのも、立派な情報収集です。その質問への答え方そのものが、学校の留学生に対する姿勢を映し出します。
第三層「個人」──OPT手数料案と、数字が示す潮流
最後に、受験者一人ひとりに最も近い層です。
TIMEによれば、国土安全保障省は10月7日、OPTの申請に7万ドルの手数料を課す規則案を示しました。大学側に参加学生ごとの負担を求める内容とも報じられていますが、7万ドルという金額と学生ごとの負担がどう関係するのか、記事の説明だけでは判然としません。何より、これは**確定した規則ではなく「案」**です。米国の規則制定では通常、パブリックコメントの期間を経て最終規則が定まります。内容が変わる可能性も、施行が争われる可能性もあります。
この「案」と「確定」の区別は、思っている以上に重要です。実際、2025年9月に導入されたH-1B申請への10万ドルの手数料は、2026年6月に連邦地裁が「権限のない課税」として無効と判断し、7月には控訴裁判所も執行停止を認めず、政府の控訴が係属中です。その一方で、政権は8月に、抽選対象のH-1B申請に10万3,265ドルの手数料を課す新たな案を示しています。発表、提案、司法判断、再提案という往復が、この一年の米国の移民政策の実態でした。見出しの一つひとつに一喜一憂していては、判断の軸がぶれてしまいます。
そして、在籍者数の数字です。2025年秋の新規留学生17%減(NAFSA推計)、2026年春の20%減(別報告)という数字は、留学生全体の潮流を示すものです。ここには逆説的な含意もあります。志願者が減れば、合格のハードルが相対的に変化する可能性があるということです。ただし、これを「今はチャンスだ」と短絡するのは禁物です。MBAの合否は全体の志願者数だけでなく、各校が求める多様性やクラス構成の方針で決まりますし、学校によって動向はまったく異なります。数字は、慌てるためのものでも、楽観するためのものでもなく、文脈を理解するためのものです。
日本人受験者が、今日確認すべきこと
では、こうした三層の変化を前に、日本人のMBA受験者は具体的に何をすればよいのでしょうか。
最初に確かめていただきたいのは、ご自身の「出口」です。社費派遣で卒業後は日本の勤務先に戻る方にとって、今回のPERM停止やOPT手数料案の直接的な影響はきわめて限定的です。気にかけるべきは渡米時のビザ手続が円滑に進むかどうかであり、そこは従来どおりの準備で十分に対応できます。一方、私費で留学し、卒業後に米国で働くことを視野に入れている方にとっては、今回の一連の動きはキャリアプランの前提に関わる変数です。まずは自分がどちらの立場にあり、米国就労がプランの中でどれほど中心的な位置を占めるのかを言葉にしてみてください。
次に、米国就労を考える方は、プランに「複線」を用意しておくことをお勧めします。STEM指定のMBAプログラムであればOPTを最長3年まで延長できるため、H-1Bの抽選機会が増えます。この制度上の差は、志望校選びの一つの判断材料になります。また、米国に限らず、英国、カナダ、欧州、シンガポールなど、卒業後の就労ルートが比較的明確な地域の学校を併願先に加えることも、リスクを分散する現実的な手段です。米国で一定期間働いた後に日本やアジアの拠点に戻る、という道筋を最初から描いておくのも賢明でしょう。
そして三つ目は、情報との付き合い方です。今回のように発表と提案と司法判断が目まぐるしく入れ替わる局面では、SNSの断片的な情報よりも、報道の一次ソース、各校の公式声明、移民法の専門家による解説に当たる習慣が、何よりの防御になります。規則案であれば最終規則が出るまで、捜査であれば結論が出るまで、確定した事実と未確定の見通しを分けて手帳に書き留めておく。そんな地道な作業が、出願戦略の判断を曇らせないための土台になります。
結びに──地図が描き替わるときこそ、自分の羅針盤を
制度の地図は、これからも描き替えられていくでしょう。しかし、MBA留学の価値そのものは、ある一国の一時期の政策で消えるものではありません。世界中から集まる同級生と議論を重ね、自分のリーダーシップを問い直し、キャリアの選択肢を広げる。その経験の本質は変わらないはずです。
大切なのは、地図の変化を正確に読みながら、自分がなぜMBAを目指すのか、卒業後にどこで何をしたいのかという羅針盤を手放さないことです。外部環境が揺れるときほど、その問いへの答えの深さが、エッセイにも面接にも、そして留学後の人生にもにじみ出ます。
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出典
- TIME(2026年10月9日)米政権による8社の永住権手続停止と9大学へのJ-1調査に関する記事 https://time.com/article/2026/10/09/us-immigration-visa-fraud-green-card-h1b-j1-microsoft-adobe/
- Ellis(移民法律事務所)PERM停止に関するニュースレター https://www.ellis.com/resources/perm-suspension-microsoft-adobe
- KATV(Sinclair系)Microsoft・Adobeの永住権プログラム排除に関する報道 https://katv.com/news/nation-world/vice-president-jd-vance-to-unveil-h-1b-foreign-work-visa-j-1-abuse-findings-department-of-labor-justice-protect-american-workers-human-trafficking-fraud
※本記事は2026年10月12日時点の報道に基づく情報整理であり、法的助言ではありません。個別のビザ・移民手続については、移民法の専門家にご確認ください。
本記事は、AFFIANCE Learning Studio創業者・土佐徳彦による寄稿です。
AFFIANCE Learning Studioについて
AFFIANCE Learning Studioは、土佐徳彦が創業した教育スタジオです。海外MBA受験指導、思考の型「TOSA Logic Engine(TLE)」、AI時代の第二の脳「My Brain / Company Brain」を軸に、人と組織の思考・判断・学びを再設計しています。
著者プロフィール
土佐徳彦(Naruhiko Tosa)
AFFIANCE Learning Studio創業者。2003年より海外MBA・海外大学院受験指導に携わり、「受験生700名強をHarvard・Stanford・INSEADを含む世界のトップMBA等へ合格」に導いてきた。思考の型「TOSA Logic Engine(TLE)」と、AI時代の第二の脳「My Brain / Company Brain」を軸に、教育、キャリア、経営、AI活用について研究・発信している。
海外MBAとキャリアの選択を考える記事は、土佐徳彦のnoteをフォローしてお読みください。








